飛行機雲
ご訪問ありがとうございます。
ここで、霧箱の補足説明をしたいと思います。
一番言葉少なく霧箱を説明すると「白い線(霧)が見えると、放射線がそこを通った」って分かる装置です。
「飛行機雲を見ると、飛行機が見えなくても飛行機がそこを通った」って分かることとほぼ同じです(違う部分は後半に説明します)。
下の動画(40秒)を見ると(忙しい方は25秒から5秒だけ)、意味が分かりやすいと思います。
霧箱で見る放射線
この動画で見えている白い線(霧)は、アルファ粒子と呼ばれるものです。
ここで、まず、霧箱の歴史について簡単に説明します。
霧箱は、1911年イギリスの物理学者チャールズ・ウィルソンによって開発されました。
そして、「荷電粒子の観測を通して物理学に貢献した」ことにより
1927年に
ノーベル物理学賞(ノーベル財団のページ)を受賞しました。
ところで、霧箱という言葉なのですが、英語では、"Cloud chamber"です("Fog box"ではないです(笑))。
"chamber"は、部屋や空間といった意味なのですが、直訳では、うまく伝わらないと考えたのでしょうか。
「雲は空にある霧」と考えるのが日本流、「霧は地上にある雲」と考えるのがイギリス流なのでしょうか。
以下では、雲と霧を同じ意味と考えて読んでください。
また、霧箱という言葉なのですが、その意味するところは、霧のかかっている箱ではなくて、霧ができやすい箱です。
さて、飛行機雲は、水蒸気の過飽和状態の空中において、飛行機の排気ガスを凝結核とした雲です。
大気の動きが無い場合にはそのまま残ります。
霧箱の場合、箱の中に、アルコールの過飽和状態ができています。
これは、底面から少し上のあたりにできやすいです。
そこに、放射線が来ると、窒素や酸素分子を電離してイオンを作ります。
このイオンが凝結核となって、周りのアルコール分子を引き付けて、霧になります。
しかし、過飽和状態は、重力によって、上から下へ常に流れているために、すぐに消えます。
放射線とは、高エネルギーの粒子のことです。物理学辞典では以下のように記述されています。
引用)物理学辞典, 培風館, 2002
最初はレントゲンが発見したX線, ついで自然放射性元素から放出されるα線, β線, γ線のことであったが, 現在では, エネルギーをもって運動している素粒子, 原子核, 光子などを総称して放射線とよんでいる.
ですので、ここでは、高エネルギーの粒子ということで統一したいと思います。
つまり、α線はアルファ粒子、β線は電子、γ線は光子で、エネルギーの高い状態です。
また、アルファ粒子は、陽子2個、中性子2個合体したものです。
さらに、陽子と中性子は、ともにクオーク3つからなる粒子です。
ここでは、クオークという言葉が出てきたので、それを簡単にまとめます。
クオークは素粒子と呼ばれるものの一つです。
素粒子は、細かい区別しない場合には、以下のようにまとめることができます。
クオーク(6個)(物質を作る)
アップ(u)、ダウン(d)、チャーム(c)、ストレンジ(s)、ボトム(b)、トップ(t)
レプトン(6個)(物質を作る)
電子(e)、電子ニュートリノ、ミュー粒子(μ)、ミューニュートリノ、タウ(τ)、タウニュートリノ
ゲージ粒子(4個)(力を伝える)
光子(γ)(電磁気力)、Wボソン、Zボソン(弱い力)、グルーオン(g)(強い力)
ヒッグス粒子(1個)(H)(質量の起源になる)
陽子は、uud(アップクオーク2つとダウンクオーク)です。中性子はudd(アップクオークとダウンクオーク2つ)です。
ややこしいことを言っているようですが、結局、上にある6個、6個、4個、1個の組み合わせで全て説明できるっていうことなので、ただ単にその名前なので、覚えてしまったらいいと思います。
クラスの人間関係のように、関係性やそれぞれの特徴はややこしいですが、個別の名前を覚えるのは簡単だと思います。
繰り返しですが、この陽子2個、中性子2個が合体したものがアルファ粒子です。これは、空気中のラドン222という放射性物質から発生します。
これは、1立方メートルで約10ベクレル(1秒間に1回放射)という量なので、ざっくり計算すると10立方センチメートルなら1分間に1個程度となります。
ただ、霧箱の上下方向に飛ぶとほとんど見えないですから、それを考慮すると、実際に霧箱で見えるは数分間に1回という頻度になります。
今回、霧箱で見えた可能性のある宇宙線は、ミュー粒子という素粒子です。
実は、目の前の空間に、ミュー粒子という放射線が飛んでいます。
なぜ宇宙線とも言うかというと、起源が宇宙にあるからです。
宇宙から飛来する陽子という粒子が地球の大気と反応して、ミュー粒子ができます。
そのため、陽子を一次宇宙線、ミュー粒子を二次宇宙船と言ったりします。
このミュー粒子は、手のひらサイズを、だいたい1秒間に1個突き抜けています。
[参考/さらに詳しく!]
宇宙線とは(名古屋大学 宇宙線研究部)
当日のセットアップ(正面のテーブルがペルチェ素子式霧箱、奥のテーブルがドライアイス式霧箱)
ペルチェ素子は、電流を流すことで温度差を発生させる半導体素子です。
電気によって低温を実現できるので、動作が非常に簡単です。
『自然放射線を見てみよう(宇宙線も見えるかも!)』のブースに来て頂き、ありがとうございました。
実際に宇宙線である可能性が高い"線"が見て頂けたかというと、正直なところ、難しかったと思います。
その宇宙線(ミュー粒子とも言います)ですが、ざっくり、手のひらに1秒間に1個という頻度で飛来しています。
次の動画を見るとそのイメージが分かると思います(最初の数十秒だけで少し見てみてください)。
より細かく正確に説明すると、チャールズ・ウィルソンが開発したのは
断熱膨張型霧箱(ウィルソン霧箱)と言います。
これは、連続的に放射線を見ることができるわけではなく、冷却した瞬間(空気を断熱膨張させて瞬間)だけ見えるものです。
ですので、連続的に放射線を発生させているような放射性物質を観測することに適しています。
それに対して、今回用意した霧箱は、全て
拡散型霧箱といって、断熱膨張型霧箱の改良版です。
この改良は、1939年にアメリカの物理学者、アレキサンダー・ラングスドロフによって行われました
(
Alexander Langsdorf Jr.)。
英語では、Diffusion Cloud Chamberと言います。
下の霧箱は、断熱膨張型霧箱です、一瞬しか放射線が見えないので、自然放射線を観察することは少し難しいです。
Wilson's Cloud Chamber/ Mr. Denjiro’s Happy Energy! on YouTube (外部サイト)
また、拡散型霧箱では、なぜ霧ができるのか、少し注意が必要です。
蓋を開けたときに空気の流れがあると、水蒸気とアルコール分子の合わせ技で白い霧ができる場合があります。
このとき、水蒸気が凝結核となって、そこにアルコール分子が取り付いて霧ができます。
放射線を見ることができるのは、他にもあります。
リニアコライダーpodcast第61回の3 on YouTube (外部サイト)
これは、スパークチェンバーという機器で、宇宙線が、ブツブツと言う音とともに光の線として観察できています。
宇宙線が、スパークチェンバー内の気体(ヘリウム)を通過するときに、ヘリウムを電離(電子と、プラスの電荷をもった分子)して、そのの電子に電圧をかけることで、電子を加速し、さらに、その電子がヘリウムを電離していって、放電することになります。
霧箱での飛行機雲にあたるものが、スパークチェンバーでは、放電による光になります。
ここで、少し注意してもらいたいのは、これを見ると、宇宙線は上から来ているように見えますが、斜めからも、量は少なくなるものの来ていることです。
霧箱では、アルコールの雲ができる領域は平面状ですので、この斜めから来くる宇宙線を、『長く細い線』として見ることができます。
次のリンクに、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、宇宙線の写真があります。
本当は、このようなものを実際に見て頂きたいと思ったのですが、限られた時間の中では難しいことがあったかと思います。
次回は、より見やすいように工夫して、科学の祭典に出展したいと思いますので、また、お時間ありましたら、ぜひ、ご訪問ください。
自然放射線の飛跡 on 有限会社ラド(外部サイト)
今回見て頂いた『宇宙線』は、実際は、『ミュー粒子』と呼ばれているものですが、そもそも、『宇宙起源の粒子は全てそう言う』というところもありますので、実は他にもたくさんあります。
聞いたことあるようなもので、ニュートリノや、高エネルギーガンマ線などがありますが、それはまた、別の機会ということにしたいと思います。
当日の様子
[参考/さらに詳しく!]
霧箱の原理(名古屋大学 素粒子・宇宙物理系 基本粒子研究室)
自然放射線の飛跡(有限会社ラド)
宇宙線ミューオンを霧箱でキャッチする!(大人の科学.net)
[備考]
霧箱の動画は、有限会社ラドの戸田式電子冷却霧箱E-114を使用して合同会社SK-Softwareが撮影したものです。
ご覧頂きました通り、大変良く見えます。
興味の持った方用に、以下にリンクを貼っておきます。
KIRIBAKO STORE RADO
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