飛行機雲(ひこうきぐも)
霧箱の補足をします(副題は、宇宙線を見てみよう!)。
ここまでたどり着いて頂きありがとうございます。
恐らく、その日は、霧箱を覗いても、宇宙線なのか、何なのか、一体何を見ているのか、良く分からなかった子も多かったと思います。
そのままだと、消化不良にしてしまうように思うので、ここで、少し補足をしたいと思います。
すっきりしたら、嬉しいです。
まず、下の動画(40秒)を見てみてください(忙しい人は25秒から5秒だけ見てください)。
霧箱動画
この動画では、何か見えたんじゃないでしょうか?白い線が。
それは恐らく宇宙線ではないんですが(宇宙線はもう少し細い線)、霧箱で見えるというのは、どういうことか分かりやすいと思います。
白い線になって、それがすぐ消える。そこには確かに何かがあったということになります。
まず、そもそも、なんですが、今、目の前の何も無い空間には、実は色々ある、というところから始めたいと思います。
布の袋は簡単に潰せますが、ナイロン袋は口を閉じてしまうと簡単には潰すことができませんよね。
考えると、ちょっと不思議になります(何もないんだから、潰れてもいいような・・・)。
でも、皆さんもご存知のように、そこに空気があって、ナイロンを通り抜けられないので、潰れません。
何も見えない空間に空気は確かに存在しています。
また、ナイロン袋では捕まえられないけど、そこにありそうなものに、電波(でんぱ)もあります。
『アンテナ』という言葉を聞いたことがあると思います。
アンテナの仕組みは、それはそれで奥深いですが、とにかく、アンテナで電波を捕まえることができます。
屋根の上に見るアンテナでテレビの電波捕まえてるし、スマホの中にあるアンテナでデータの送受信しています。
見えないけど、やはり、目の前に電波っていうものがあります。
そして、目の前の空間に、実は『宇宙線』というのもあります。
と言いますか、そもそも『宇宙線を見てみよう!』って、言っても、宇宙線って何?って感じの方も多かったかもしれません。
簡単に言うと、宇宙を起源にした、小さい粒子のことを言います。
宇宙のどこからか、小さい粒子(一次宇宙線)が飛んで来ます。
そして、地球の大気で反応して、さらにたくさんの小さい粒子(二次宇宙線)が、この地上に注いでいます。
一次宇宙線は、陽子という粒子が多くて、二次宇宙線は、ミュー粒子という粒子が多いです。
だから、今回の『宇宙線を見てみよう!』というのは、違う表現にすると、『ミュー粒子を見てみよう』と言い換えることもできます。
このミュー粒子は、手のひらサイズを、だいたい1秒間に1個突き抜けています。
上からも横からも。
備考)霧箱は、横からの宇宙線を見ることができるので、見える頻度は1秒間に1個ではありません。
[参考/さらに詳しく!]
宇宙線とは(名古屋大学 宇宙線研究部)
だから『宇宙線を見る』ということは、ほとんど『ミュー粒子を見る』ということになります。
今回は、そのミュー粒子を、霧箱っていうので見ようとしています。
その原理は、飛行機雲や白い息ができるのといっしょです。
雲や白い息は水滴の光の乱反射で白くなります。
冷たい空気に、温かくて核となる塵がある空気を送り込むと、白くなります。
注意!冷たすぎる空気に温かい空気を送り込むとすぐに凍っちゃって白くなりません。
これは、温かい状態では、たくさん水蒸気を含めるけど、冷たい状態に移すと水蒸気として含むことができなくなって、小さい水滴になってしまうことが原因です。
そして、その、水滴が光を乱反射して白くなります。
温かい空気は、たくさん水蒸気を保持できます。つまり、"蒸し暑い"は正しいことになります。
逆に、冷たい空気は、あまり水蒸気を保持できません。だから、"蒸し寒い"ということはありません(笑
霧箱は、この蒸し寒い状態を無理やり作ります。
下の方をキンキンに冷やして水蒸気が水になりやすい状態(過飽和状態)を作ります。
だけど、まだ、水にならない、ギリギリのところを作ります。
これは、まだ、白くはならないけど、何かきっかけがあれば、白くなる、っていう状態です。
ここに『ミュー粒子』が飛んでくると、これがそのきっかけになります。
ミュー粒子は、電荷(電気)を持っていて、空気中の原子・分子をイオン化することができます。
極性(きょくせい)を持つ水分子(みずぶんし)は、そのイオンめがけて集まって水滴になります。
この水滴が白く見えます。
ちょっと難しいけど、極性があるということは、電荷の偏りがあるということで、偏りがあると、プラスやマイナスに引き寄せられることになります。
そして、水蒸気よりも、より見やすい状態を作れるのが、エタノール(アルコール)です。
だから、霧箱ではエタノール蒸気を使っています(そして、エタノール分子も極性を持っています)。
ミュー粒子は、空の上の方でできて、地上までやってくるから、霧箱の大きさくらいは簡単に突き抜けます。
だから、長い線になって見えます。
もちろん、霧箱を斜めに通り抜けると短くなる場合がありますが、短いと宇宙線と言うにはちょっと難しくなります。
なぜかというと、自然放射線・環境放射線と言って、物質中や空気中にも少しだけ、放射性物質が存在して、このような物質からも、やっぱり小さい粒子が出てきているからです。
そういう小さな粒子が、やっぱり原子・分子をイオン化するから、同じように白い線を作ります。
この小さな粒子の種類によって、見え方が少しづつ違います。
アルファ粒子というのは、電荷も質量が大きいから、太い線になりやすいです。
また、電子という粒子は、細いグニャグニャした線になりやすいです。
ガンマという粒子は、その粒子の通ったところに、電子という粒子のようなものが連続的に出やすいです(ガンマは霧箱では見えないけど、電子が出たことで、ガンマ線がいたことの間接的に見ています)。
こういうのを除いて、宇宙線らしい線を探すといいです。
さて、今回、短い時間で、宇宙線らしい線を見ることできましたでしょうか?
インターネットで検索して、霧箱の宇宙線の写真を見ることもできるけど、実際に見るのはまた違うと思います。
実際に見るって凄くて、きれいな月や、おおきな山を見てその大きさや威容に感動すると思います。
でも、写真になると、こんなものかな?というような写真になってしまいます。
同じは同じなんだけど、何か違うような気がします。
だから、次回もまた、見に来てください(笑
[参考/さらに詳しく!]
霧箱の原理(名古屋大学 素粒子・宇宙物理系 基本粒子研究室)
自然放射線の飛跡(有限会社ラド)
宇宙線ミューオンを霧箱でキャッチする!(大人の科学.net)
[備考]
霧箱の動画は、有限会社ラドの戸田式電子冷却霧箱E-114を使用して合同会社SK-Softwareが撮影したものです。
ご覧頂きました通り、大変良く見えます。
興味の持った方用に、以下にリンクを貼っておきます。
KIRIBAKO STORE RADO
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